熊本地方裁判所 昭和38年(ワ)490号 判決 1967年3月18日
原告 全林野労働組合九州地方本部 外五名
被告 国 外六名
訴訟代理人 小林定人 外一〇名
主文
原告等の被告熊本営林局長、同大口営林署長、同鹿屋営林署長、同対馬営林署長、同小林営林署長、同飫肥営林署長に対す偽本件各訴を却下する。
原告等の被告国に対する本件訴のうち、別紙記載(二)の労働協約が存続することの確認を求める部分を却下する。
原告等の被告国に対する本件訴のうち、その余の部分の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事 実 <省略>
理由
(本案前の抗弁について)
一 被告等は、被告国を除くその余の被告は当事者能力を欠いており、右の者に対する原告等の訴は不適法であると主張するので、まずこの点につき判断する。本訴被告中、被告国を除いたその余の被告は全て国の行政機関であつて、行政事件訴訟法等法律に特別の規定がある場合の他は、訴訟の当事者となる権能を有しないと解するのが相当であるところ、本件訴訟は労働協約等の存続確認を求める通常の民事訴訟法上の訴であつて、国を除いたその余の被告等は全て当事者能力を欠いているものというべく、右被告等に対する原告等の訴は不適法として却下を免れない。
二 次に被告は別紙(二)の労働協約については確認の利益がない旨主張する。大口営林署と全林野労働組合九州地方本部大口分会との間に締結された別紙(二)の労働協約は「全幹集材については全林野九州地方本部と協議が整うまでは実施しない」旨を定めたものであるところ、<証拠省略>によれば、熊本営林局と全林野九州地本との間で全幹集材方式の採用について団体交渉が行われた結果、昭和三八年五月一六日、一七日協議が整い、以後同営林局管内においては全面的に全幹集材方式が採用されるに至り、大口営林署においても現在すでに全幹集材方式により作業が行われていることがみとめられ、右認定に反する証拠はない。
そうすると別紙(二)の協約は、現在に至つてはその存在の意義を失つたものというべきであり、その存続確認を求める訴は確認の利益を欠くものと言わざるを得ない。
(本案について)
一 別紙記載(一)ないし(二)の労働協約等は、別紙記載の日時に、各当事者間において締結作成されたものであること、熊本営林局並びに各営林署から昭和三八年四月二二日右各協約等の事案について、相手方当事者である原告等に対し、昭和三八年七月二二日付をもつて解約する旨の解約予告がなされたこと、右各事案のうち(五)、(八)、(一一)は労組法上の労働協約に該当するものであること、右三事案を除いたもののうち、(四)、(七)、(一〇)の議事録確認事項には当事者の記名押印がなされているが、残りの(一)、(三)、(六)、(九)の議事録確認事項には当事者の署名又は記名押印が欠けていること、はそれぞれ当事者間に争いがない。
二 原告等は別紙記載事案中、(五)、(八)、(一一)、以外の各事案も全て労組法上有効なる労働協約であり、仮に当事者の署名又は記名押印の欠けている(一)、(三)、(六)、(九)の事案について右主張がみとめられないとしても、右の各事案は少くとも労働協約としての本質的効力、すなわち規範的効力だけは有しているのであり、さらに私法上の契約としては有効なものであるから、そのような効力を有するものとして、法律上存在の意義を有すると主張する。<証拠省略>によれば、
団体交渉議事録は、団体交渉における労使双方の発言など交渉の経過事実、ならびに団体交渉において意見の一致をみたものについてはその結果を書記が記録したものであり、本来これは労使双方の交渉委員の代表が確認のうえ、調印をすることになつているのであるが、記録整理の遅滞など事務処理手続上の都合により現在では右確認手続がとられない例が多くなつていること
また小委員会議事録は、団体交渉の議題が非常に複雑で長時間の論議を必要とすると判断されるものである場合に、団体交渉において労使双方が協議の上、右事案の交渉のために特に設けられる小委員会に右事案を付託し、労使双方からそれぞれ選出された委員により構成される同委員会において十分に論議を尽し、その結果成立した協定事項を記録したものであつて、小委員会での協議の経過ならびにその結果は、その後団体交渉において報告され承認をうけるという手続がとられることになつており、小委員会議事録も一般の団体交渉議事録と同じ効力を有するものとして取扱われていたこと
団体交渉において合意の成立したもののうち、労使双方で特に労働協約としてその存在を明確にしておく必要があると考えられたものについては、合意の内容を整理し、労働協約としての形式に起案したうえ、さらに団体交渉にかけて労使双方がそれを確認し、調印するという取扱がなされていたこと
しかしながら、団体交渉において成立した労使間の協定は、それが労働協約という形式に整えられていようと、又は団体交渉議事録(又は小委員会議事録)のままでおかれていようと(それについて前記調印手続が済んでいる場合にはもちろんのこと、仮に調印がなされていない場合においても)、労使双方はこれを互に尊重して遵守し、これに基づいて事務を処理するという取扱がなされていたのであつて、取扱効果という点においては、形式如何により両者の間に差異は全くなかつたことを肯定するに足りる。隅田証人の証言のうち右認定に反する趣旨の部分はたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで労組法(一四条)は、労働協約が個々の労働契約の内容を直接に左右し、又場合によつては協約の締結当事者たる労働組合に加入していない労働者に対してまでもその効力をおよぼすことがある等、一般の契約とは異つて、法にも比すべき強い効力がみとめられているうえ、労使間の集団的、継続的な関係を規律する作用を有しているところから、当事者をして慎重審議させると共に、その内容の明確化をはかり、かつ当事者の最終的な意思を確認し、さらには労働協約の成立および内容について爾後に紛争の生ずることを防止し、労働協約の確実性を保持させるという立場から、労使間において或る協定が成立した場合にも、右協定を有効な労働協約として効力を生じさせるためには、その内容を書面にすると共に、当事者双方が署名又は記名押印をするという厳格な形式的要件を定めている。
従つて、かかる明文のある現行法の下においては、当事者の署名又は記名押印という労組法所定の形式的要件を欠いている別紙(一)、(三)、(六)、(九)の各事案について、これを労組法上の労働協約とみとめることはできず、又労組法所定の形式的要件を欠く労使間の協定にも規範的効力のみはあるとの主張についても、立法論としてはともかく、現行法の解釈としてはかかる見解に左祖することは困難であるばかりでなく、特に別紙(一)、(三)、(九)の事案の内容は、いずれも講学上いわゆる債務的部分と呼ばれているものであつて、かかる取極については、もともと規範的効力の有無を問題にする余地はないのであるから、いずれにしても右の見解は採るを得ない。
次に形式的要件を欠く協定にも民法上の契約としての効力はあるとの主張についても、かかる見解をとるならば、前述の立法趣旨を有する労組法の存在を事実上無意義ならしめ、かつ労働協約について特に市民法上の契約とは異つた取扱を定めた労組法の諸規定(一五条など)を潜脱する結果となるところから到底これに賛同することはできない。
結局当事者の署名又は記名押印を欠いた別紙(一)、(三)、(六)、(九)の各事案については、表示された合意の内容そのものに即して直接当事者を拘束する法律上の効力をみとめることはできない。
次に、当事者の記名押印のある別紙(四)、(七)、(一〇)の事案について考えるに、その内容は別紙記載の如く、いずれも労働条件等に関する労使間の合意の結果を記載したものとみとめられるところ、前記認定の事実関係によれば、かかる労使間の協定については、書面の形式が団体交渉議事録(又は小委員会議事録)となつているからといつて、特に労働協約として正式に締結されたものとの間に取扱上の差別はなされていなかつたというのであるから、右事案はいずれも労組法上有効なる労働協約として成立したものとみとめるのが相当である。
そこで、以下労組法上の労働協約である別紙(四)、(五)、(七)、(八)、(一〇)、(一一)の者事案の存続の有無について判断する。
三 原告等は本件労働協約の解約には理由がないと主張する。労組法一五条三項、四項は、有効期間の定めのない労働協約については、いずれの当事者からでも九〇日の予告期間をおいて解約することができる旨規定している。
これは労使関係が流動的な性質をもつており、又経済事情等外部の事情も刻々変化するものであるところから、或る時期に労使間で成立した労働協約により両当事者を固定的に拘束することは、かえつて労使関係の不調和、不安定を来すことのあるのを慮つたため設けられたものであつて、労働協約の解約には、権利の濫用など特段の事情がない限り、右解約に関する規定の要件さえみたせば足り、解約を止当ならしめる特別な理由は必要でないと解するのが相当である。
<証拠省略>によれば、別紙(四)、(五)、(七)、(八)、(一〇)、(一一)の各労働協約は有効期間の定めがないものであることが明らかであるから、被告等のなした右協約の解約にはもともと解約を正当ならしめる特段の理由は必要でないものというべく、従つて右の点に関する原告等の主張は理由がない。
四 次に原告等は別紙(一〇)、(一一)の労働協約の解約は上部協約に定めてある解約手続に違反していると主張する。
<証拠省略>によれば、別紙(一〇)の議事録確認事項の上部協約である三六林協第三五号「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」は昭和三六年九月一日、別紙(一一)の覚書の上部協約である三六林協第八六号「通勤手当の支給に関する協約」は昭和三六年一二月二二日に、林野庁と全林野労組との間でそれぞれ締結されているのに対し、別紙(一〇)、(一一)の各事案は右上部協約が締結された後、昭和三七年二月六日、同年一月一九日に熊本営林局と全林野九州地本との間で各締結されたものであること、
上部協約に抵触した内容を有する下部協約の取扱については、昭和三五年九月一日林野庁と全林野労組との間において、三五林協第三八号「団体交渉に関する協約」(第一五条)、三五林協第三九号「団体交渉に関する協約の運用に関する覚書」(第六項)、「団体交渉に関する協約についての議事録確認事項」(第六項)として、「有効期限(期限の定めのないものについては三ヵ月)を限度として、この範囲内で上部協約を締結した当該機関で協議決定する。」旨の取極がなされているのであるが、右規定は上部協約が締結された当時すでに上部協約と抵触する下部協約が存在している場合についてのものであつて、本件の如く上部協約締結後に下部協約が締結された関係にある場合についてのものではないこと、
を肯定するに足りる。
原告等は、営林当局は別紙(一〇)、(一一)の各協約を締結した際には、すでに前記上部協約が存在していたことを知つていたのであるから、本件解約は禁反言の法理に反するとか、両協約が上部協約に抵触するか否かの決定は上部機関の協議検討に委ねられなければならぬとも主張するが、そのように解すべき根拠は見出すことができない。
そうすると本件解約が上部協約の定める解約手続に違反するとの原告等の主張も又理由がない。
五 さらに原告等は別紙(四)、(五)、(七)、(八)の各協約の解約は不当労働行為であると主張する。
(一) 各協約の締結ならびに解約について
1 別紙(四)の労働協約について
<証拠省略>によれば、国有林野事業の造林部門における作業形態には、国の直営にかかる直営制と、民間の者に請負わせる請負制の二種類があるが、林野当局は昭和三三年ごろから林力増強計画という合理化計画に基き、経費も安くあがり、手間もはぶけ、能率的でもある請負制を一定の条件の下に((1) 労働力の不足している地域。(2) 事業分量の増大する場合。(3) 国が行うより効率的である場合。これは請負三原則と呼ばれていた。)、逐次導入してきたところ、全林野労組は作業員の雇用安定、労働条件の低下の防止、災害補償の確保、さらには全林野加入組合員の増加をはかる等の理由によりこれに反対し、全て直営制で運営することを要求し、又直営制を請負制に切替えるが如き労働条件に変化を来たすような作業方式の変更については、事前に組合と協議する、いわゆる事前協議制の獲得をその運動方針としていたこと
対馬営林署においては、従来官行造林事業のうち地拵、下刈作業の殆んどが関係地元部落の請負により実施されてきたところ、全林野労組対馬営林署分会から右請負を直営方式に切替えるようにとの要求が出され、右問題をめぐる団体交渉において論議がなされた結果、直営方式でするか、請負方式でするかは作業員の労働条件に重大な影響をおよぼす問題であるから、請負方式をとるについては事前に組合と協議するようにとの組合の要求に当局が応じ、本件協約が締結されるに至つたこと
本件協約が締結されたことにより、対馬営林署管内においては、前記請負三原則により、請負制を導入しうる地域があつたにも拘らず、組合の同意を得られないということから事実上請負制を採用することができず、事業運営に支障を来す結果を生じていたところ、対馬営林署当局は本件協約において協議の対象とされているのは、文言上は労働条件の変更の場合となつていて、労働条件であるかの如くであるが、それは名目にすぎず、実は請負制への切替自体であると判断し、かかる事項は管理運営事項であつて、本件協約は公労法に違反するものであるとして、本件解約措置に出るに至つたこと
を肯定することができる。
2 別紙(五)の労働協約について
<証拠省略>によれば、対馬営林署は、設備投資ブーム等の影響で急激に増加した木材の需要に対処するため昭和三六年林野庁が立案した増伐計画においては、その対象とはなつていなかつたのであるが、同営林管署内に大量の松食虫が発生したため、その防除並びに虫害木の有効利用をはかるため、虫害木を伐採する必要に迫られ、昭和三六年には右林野庁の増伐計画とは関係なく、虫害木の伐採をすることになり、組合との間で右伐採実施に伴う超過勤務手当等に関して団体交渉が行われた際、組合から増伐は労働条件に影響があるから事業分量が増加する場合には、事前に組合に協議するようにとの要求が出され、当局側がこれに応じて本件協約が締結されたものであること
対馬営林署で行われた虫害木の伐採は立木のまま民間業者に売り払い、民間業者においてこれを伐採するという方法がとられたため、右伐採の実施により影響をうけたのは、収獲調査等に携つた事務関係だけであり、それも数人のアルバイトの雇用等により処理しうる程度のものであつて、通常の業務に差支えを生ずるようなことはなかつたこと
本件協約が締結されたために事業運営に支障を来すことはなかつたのであるが、林野当局は(本件協約において協議の対象とされているのは、労働条件ではなく、事業計画そのものであると判断し、かかる事項は公労法にいう管理運営事項にあたるとして、本件解約手続をとるに至つたものであること
を肯定することができる。
3 別紙(七)、(八)の各労働協約について
<証拠省略>によれば、一般事務職員に対し超過勤務手当が完全に支給されるようになつたことを契機として、昭和三一年および昭和三三年ごろにそれぞれ小林、飫肥両営林署管内の寮、宿泊所に勤務する炊事手の間から、炊事手の勤務時間について不満の声があがつたので、全林野労組両営林署分会は炊事手の勤務問題をとりあげ、独自の立場で実態調査を行つた結果、炊事手の勤務の実態は当時炊事手に対し実施されていた断続勤務的なものではなく、継続的なものであることがみとめられるとして、両営林署当局に炊事手の勤務を断続勤務として取扱うことは不当であるから、継続勤務として取扱うようにとの要求をなし、労使間で団体交渉が進められた結果、遂に当局側が組合の要求を受入れ、本件両協約が締結されるに至つたこと
その後、両営林署においては、本件取極に従つて、炊事手の勤務を継続勤務とするという他署には殆んど例をみない取扱をしてきたのであるが、営林当局としては、炊事手の勤務の実態は従前同様断続的なものであつて、組合の主張するような継続的なものではないこと、別紙(八)の協約において定められている如く、実働の有無に拘らず一定の場合に超過勤務手当を支給するというのは(別紙(七)の協約においても、月の日曜日のうち二回のみは週休日として取扱い、残りの日曜日は実働の有無に拘らず、超過勤務手当の対象として取扱われることになつていた)、不当であり、又賃金に関する中央協約である三六林協第三五号協約にも抵触すること、断続勤務の実態に反して継続勤務の取扱にするのは、断続勤務に従事している者に適用される職員就業規則第三五条(監視又は断続的勤務に従事する職員については、継続的勤務に従事する一般職員に適用される勤務時間、休憩時間、週休日等の規定は適用されない旨を定めた規定)を改変することになるのであるが、かように就業規則を改変する結果を惹起する事項は、団体交渉に関する中央協約である三五林協第三八号「団体交渉に関する協約」(第九条)、三五林協第三九号「団体交渉に関する協約の運用に関する覚書」(第四項(1) )において、下部機関では処理できないと定められているのであつて、もともと営林署の交渉権限外の事項であること等の理由でもつて、本件両協約の取扱を続けることは不当であると判断し、本件解約に踏み切つたものであること
を肯定することができる。
(二) 林野当局が本件協約を解約するに至つた経緯
<証拠省略>によれば林野当局は、管理者の労務管理の手びきとして、昭和三三、四年ごろ二回にわたり労務管理ハンドブツクという文書を作成し、労務担当者に配布したのをはじめ、昭和三五年四月には法令(とくに公労法)に違反していると判断した一一一件の労働協約を解約すると共に、労働組合が使用している電話の料金を支払う等従来当局が組合に対し与えてきた便宜供与を打切ることとし、さらに昭和三七年六月には当時林野庁労務課長であつた隅田達人が熊本県山鹿市において、熊本営林局管内の営林署長に対し、九州は他地方に比し当局の組合対策(とくに全林野対策)が立遅れていると考えられていたこともあつて、かなり強い言葉で労使関係のあり方、とくに管理者としての心構えを説いて、その奮起をうながす趣旨の講演をなし(右講演の内容はその後当局により公刊されて管理者等に配布された)、又同年七月ごろには、熊本営林局管内の労使関係は従来とかく組合側に押され勝ちになつていたところから、当局の組合対策の立直しをはかり、国有林野事業の運営を一層合理的にする目的で、他局における労使関係の実情をよく知つている人を管内に迎え入れ、同時に従来他局管内とは殆んど人事交流のなかつた管内の営林署長クラスの人達を大幅に熊本営林局管外へ転出させるという九州では未だかつて例をみないような大規模な人事移動を行うなど、全林野対策に相当力を入れてきたこと
右の如く林野当局は昭和三五年四月に違法なものと判断した一一一件の労働協約を整理したのであるが、その際整理に洩れたものもあり又その後締結された労働協約の中にも法令に違反したり、上部協約に抵触するものがあるとの見地からこれらを全国的な統一基準で整理することとし、昭和三八年四月二二日合計一九二件の労働協約等について解約措置をとるに至つた結果、現在本件協約と類似の内容を有する協約等は一件も残つていないこと
右解約された一九二件のうち一二六件までが熊本営林局関係分であつたが(本件協約はこの一部である)、それは前回昭和三五年の整理の際には九州関係分については十分整理が行われておらず、又熊本営林局管内は他局に比し、当局側の労務対策が立遅れていたため、本件各協約にみられる如く労働組合側の要求に押され勝ちで、当局側からみて違法不当と判断される取極が他局よりは数多く成立していたためであること
をみとめることができる。
(三) そうすると、林野当局が労働組合とくに全林野対策に力を入れ、その対策の一環として本件協約を含む計一九二件の労働協約等の解約を行つたものであることは明らかであるが、それは国有林野事業という全国的な一つの経営組識体としての立場から、その内部での不統一な取扱を止め、同一基準の下に取扱を統一し、かつ当局の管理体制を強化するという目的でなされたものとみとめられるのであつて、とくに本件労働協約等の解約が直接団体交渉の拒否ないし組合の組織運営に対する支配介入にあたるとみとむべき具体的な事実上の連関を肯定するに足りる資料は存しない。
従つて右の点に関する原告等の主張も又理由がない。
六 原告等は、さらに本件協約の解約は当局に何ら正当な利益がないにも拘らず、唯組合を害する意図のみによりなされたものであり、権利の濫用であつて、右解約は無効であると主張する。しかしながら、右認定のとおり林野当局は一つの全国的な経営組織体として、その内部における不統一な取扱を止めるため統一的な基準の下に、法令に違反し又は上部協約に抵触すると判断した本件協約を含む一九二件の労働協約等について、解約措置をとつたというのであつて、本件協約の解約につき当局に何ら正当な利益がなかつたということはできず、従つて権利の濫用であるとの原告の主張も又採るを得ない。
七 そうすると右各協約はそれぞれ昭和三八年七月二二日かぎり解約により失効するに至つたものといわなければならない。
八 以上の次第であつて、原告等の、被告国を除くその余の被告に対する本件各訴、ならびに被告国に対する本件各訴のうち別紙目の労働協約の存続確認を求める訴は、いずれも不適法であるからこれを却下し、被告国に対し、別紙事案中、(二)の労働協約を除いた、その余の労働協約等について、その存続確認を求める原告の請求は、いずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蓑田速夫 久末洋三 福富昌昭)
(別紙)
一 昭和三四年七月二七日熊本営林局と全林野労働組合九州地方本部間において締結された退職勧奨についての団体交渉議事録確認事項
内容
退職勧奨について、今後就職、退職手当の条件等を付し、事前に地本に連絡し組合を通じて本人の意向を確める。下部において組合が了解すれば管理者組合本人との三者構成の話合もあり、又管理者と本人との話合もある。
二 昭和三七年三月三〇日大口営林署と全林野労働組合九州地方本部大口分会間において締結された三七年口第一三五六号全幹集材についての労働協約
内容
全幹集材については全林野九州地方本部と協議が整うまでは実施しない。
三 昭和三六年一二月二二日鹿屋営林署と全林野労働組合九州地方本部鹿屋分会間において締結された機械導入についての団体交渉議事録確認事項
内容
機械導入の場合は計画の時点において組合と協議する。
四 昭和三六年二月二七日対馬営林署と全林野労働組合九州地方本部対馬分会間において締結された造林および官行造林事業の請負についての団体交渉議事録確認事項
内容
造林および官行造林事業の請負については特殊な労働条件の変更のある場合(請負事業を直営事業へ変更する場合、又は直営事業を請負事業に変更する場合)には事前に協議する。
五 昭和三六年九月二九日対馬営林署と全林野労働組合対馬分会間において締結された三六年対協第八号増伐に伴う事業分量の変更に関する協約
内容
今後増伐に伴う事業分量が著しく増加する場合はその時点で協議する。
六 昭和三四年六月二五日対馬営林署と全林野労働組合九州地方本部対馬分会間において締結された炊事手の勤務形態に関する団体交渉議事録確認事項
内容
炊事手の断続勤務形態を取消し時間の割振りは組合と協議決定して定める。
七 昭和三二年九月二五日小林営林署と全林野労働組合九州地方本部小林分会間において締結された断続勤務の撤廃についての団体交渉議事録確認事項
内容
全寮共断続勤務を撤廃する。
八 昭和三四年四月一日飫肥営林署と全林野労働組合九州地方本部飫肥分会間において締結された三四飫肥協第一号炊事手勤務に対する覚書
内容
炊事手の勤務は、a断続勤務としない、b来客宿泊数に応じ一時間-二時間の超勤を一率に支給する。c週休日及祭日については原則として臨時の炊事手を雇傭する。
九 昭和三五年九月一五日熊本営林局と全林野九州地方本部間において締結された林協第三八号協約第五峰関係に基づく交渉委員の交替に関する団体交渉議事録確認事項
内容
(イ) 分会内部の交替の場合は交替の理由の説明があれば原則的に了解する。
(ロ) 上部役員の交替の場合は交替の理由の説明があつたとき当局の意見を述べて了解を求めるようにするがやむを得ない場合は了解する。
(ハ) 前二項の場合交渉委員の交替について徒らに長時間論議を費したり問題を紛糾させたりはしない。
(ニ) 交替の理由の説明は原則として団交の中で行う。
一〇 昭和三七年二月六日熊本営林局と全林野労働組合九州地方本部間において締結された、協約(三六林協第三五号)並びに覚書(三七熊協第二号)に関する局小委員会議事録確認
内容
2項、八条関係
別紙(2) 第八条第二項第二号但し書の取扱いについて
組合、一〇人未満の端数人員の処理については別紙(1) 経験年数算定要綱第三表の職群区分表により近親職種を括りその計が一〇人以上の場合は端数を四捨五入しその計が一〇人未満の場合は一人とするようされたい。
当局、第八条の一〇人未満の端数整理のための近親職種区分を次のとおりとし、その処理要領は組合提案の方法によることとしたい。
I 伐木造材手、木寄手、機械集材手、トロリー運材手、製炭手、巻立手、積込手、木馬運材手、工作工、畜力運材手、機関車等運転手、集材機等運転手、製材工、大工、機械運転助手
II 造林手AB、機械造林手、育苗手AB、保線手、道路工手、土工、石工
III 炊事手、常用雑役手、雑役手
組合了解。
4項、九条別紙(3) 調整委員会要綱について
(1) 第一条について
組合、(イ) 基本賃金の確認については本条で実施することとしたい。
(ロ) 体系切替後の履歴審査については本条により行うこととしたい。
(ハ) 前二項についての調整委員会は必要に応じて開くことにしたい。
当局了解。
8項、 一八条四項について
組合、一八条四項の端数処理は原則として一日を単位とするが、特殊なものの端数時間の処理については下部協議により決めることが出来ることとしたい。
当局、特殊なものとは給仕、小使、乗務員等で勤務時間の前又は後に三〇分未満の端数時間超過勤務をすることが通例となつているということで了解。
一一 昭和三七年一月一九日熊本営林局と全林野労働組合九州地方本部間において締結された、三七熊協第一号通勤手当支給に関する協約(三六林協第八六号)の実施についての覚書
内容
3項、実質上出費を伴つた事実のある通行券についても通勤手当を支給する。